生成AIの進化が止まらない中、その裏側で静かに進行している“クリエイターからの無断搾取”という問題をご存じだろうか。AIが進化すればするほど、その学習に用いられる「データ」の重要性が増している。しかし今、AI企業がこのデータをどのように入手しているかを巡って、深刻な倫理・法的論争が巻き起こっている。
AIモデルに必要な3つの資源とは
生成AIの開発に必要なリソースは、エンジニア、演算能力、そしてデータ。このうちエンジニアの雇用やGPUによるトレーニング環境には数百万〜数十億ドルが投じられるが、問題は「データ」だ。多くのAI企業が、著作権で保護された作品を無断でスクレイピングし、学習データとして使用している。
クリエイターの作品は無料ではない
小説、イラスト、音楽、映像。これらはすべて誰かが情熱と時間を注いで生み出した創造物だ。にもかかわらず、多くのAIモデルがこれらを無許可でコピー・使用している。しかも、そのAIがクリエイターの仕事を奪っている現実がある。
ナッシュビルのアーティスト、ケリー・マッカーナン氏は、自身の作品がAI画像生成モデルの学習に使われた結果、収入が1年で3割も減少したという。Upworkの調査でも、ChatGPTの登場以降、ライティング系の仕事は8%(低単価タスクに限れば18%)減少したと報告されている。
「人間の学び」と「AIの学習」は違う
AI擁護派の中には「人間も他人の作品を参考にして学んでいるのだから、AIも同じだ」という声もある。しかし、この主張は論理的に破綻している。人間は書籍や講座を購入し、著作物に金銭を支払うことで学びのエコシステムを支えている。一方で、AIは著作権を無視して無差別にコピーし、それを商業利用可能な製品に変えている。これは根本的に異なる行為だ。
ライセンスという解決策
このような無断使用に対して、現実的かつ実績ある解決策が「ライセンス」だ。ストリーミングサービスも、テレビ放映も、グッズ販売も、すべて著作権者との契約の上で成り立っている。生成AIだけが例外であっていいはずがない。
現在、ニュートン=レックス氏が設立した非営利団体「Fairly Trained」では、著作権を侵害しない形でAIを開発している企業を認証する制度を提供している。実際、18社以上がこの認証を受けており、ライセンス取得によって健全なAI開発が可能であることを証明している。
オープンウェブが閉じ始めている
無断学習の蔓延によって、出版社やメディアはAIによるスクレイピングを制限し始めている。1年間で20%〜33%の高価値ウェブサイトが、AIによる利用を明確に拒否するようになった。この流れが続けば、オープンインターネットそのものが機能不全に陥る可能性もある。
一般世論は「無断使用NO」「報酬YES」
AI Policy Instituteが実施した調査では、60%の人が「公開されているデータであっても、AIの学習には許可が必要」と回答。74%は「使用するなら報酬を支払うべき」と答えた。この問題に対して、クリエイター側だけでなく、一般市民の感覚とも乖離しているのが現在のAI業界なのだ。
未来のAIは人間と共存できるか?
エド・ニュートン=レックス氏が最後に強調したのは、AIとクリエイターが「共存し、相互に利益をもたらす関係」へと移行することの必要性だ。その第一歩が、尊重と契約によるライセンスである。
AI開発者、エンジニア、企業経営者、そして消費者。すべての立場の人間が「このAIは何を学習したのか?誰の権利を尊重しているのか?」という問いを持つことが、これからのAI時代において欠かせない倫理的姿勢となる。
まとめ
AIの進化は止められない。しかし、創造性を支える人間の営みが踏みにじられて良い理由にはならない。未来に向けて、テクノロジーと人間の創造力が対立するのではなく、協働できる世界を築くために、今こそ倫理ある開発と消費のあり方が問われている。