共同経営が甘く見られている時代に警鐘を鳴らす
起業時、特に人とのつながりを重視する日本社会では「仲の良い友人と会社をやる」という選択が魅力的に映ることがある。しかし現実には、共同経営は極めて難易度が高く、数多くの失敗事例が存在する。
にもかかわらず、ネット上に溢れる「仲間と夢を叶える」系の美談ばかりが先行し、冷静なリスク分析がなおざりにされがちだ。本記事では、実体験と事例、そして経営構造上の欠陥に切り込みながら、「なぜ共同経営はうまくいかないのか」を徹底的に掘り下げていく。
親しい関係が破綻する構造的な原因とは
共同経営が破綻する最大の理由は、「ビジョンや価値観の違い」ではない。それは多くの人が誤解している。実際の破綻の原因は、責任の所在の曖昧さ、意思決定の遅延、主従関係の不在、そしてスキルの重複という“構造上の欠陥”に起因している。
一見「仲が良い」ことはアドバンテージに思えるが、経営においてはそれがむしろ「何も決まらない原因」になることすらある。
責任の押し付け合いが始まると終わりは近い
友人との共同経営で最もよくあるトラブルが、失敗したときの責任のなすりつけ合い。これは意思決定権が共有されていることが原因で起きる。最終的な判断が「誰の責任か」が曖昧なままプロジェクトを進めてしまい、問題が起きた際に泥沼化する。
誰も責任を取らない組織に信頼は育たない。信頼が崩れたとき、友情も同時に終わる。
スピード感を失った意思決定が命取りに
現代のビジネスでは、瞬時の判断が命運を分ける場面が少なくない。特にスタートアップやスモールビジネスでは、意思決定の遅れがそのまま競合に市場を取られる要因となる。
共同経営では、1つの決定に対して毎回話し合いが必要になる。しかも、双方の意見が平行線をたどると、そこで思考が止まってしまう。「この案件、進めていい?」という問いに即答できない時点で、経営判断としては致命的だ。
意思決定に関しては、最初からNo.1とNo.2を明確に定め、「誰が最終責任を取るのか」を明文化しておくべきである。
失敗事例:売上が良い時には見えなかった“綻び”
あるWeb制作会社では、SEOに特化したサービスで創業初期から好調な滑り出しを見せていた。だが、Googleのアルゴリズム変更により売上が激減。浮き彫りになったのは、経営陣2人の間にあった「責任の分担」「行動方針」「スキル領域の重複」だった。
友人という関係性が先行してしまい、建設的な対立すら避けていた2人。決断を先延ばしにする癖がつき、気づけば社員からの不満も蓄積。人間関係は次第に壊れていき、やがて静かに決裂を迎える。
その後の「辞めるための作業」には数ヶ月を要し、資産の分配、メディアの権利、顧客対応、契約解除など、数多くの摩擦が生じた。最も厄介だったのは、「自社で構築したWebメディアをどう分けるか」という点だった。
スキルが被ると、補完関係は築けない
共同経営の前提は「補完関係」であるはずだ。営業と開発、企画と財務など、それぞれ異なるスキルセットを持ち寄ることで初めて、1+1が3にも4にもなりうる。
しかし、実際は「似た者同士」が組むことが多く、対応できる仕事が重なることで仕事の奪い合いになり、どちらが主導するかで揉める。
最悪の場合、「相手が無能に見えてしまう」という現象が起きる。これは個人の能力の問題ではなく、構造的な歪みからくる感情的な衝突である。
理念と行動指針の欠如が議論を感情論にする
ビジネスにおいて、感情論での議論は生産性を著しく下げる。特に共同経営では、価値観の違いが浮き彫りになったときに、それを咀嚼する“軸”がないと話がまとまらない。
この“軸”こそが、理念や行動指針である。会社として「どこを目指すのか」「何を良しとするのか」を明文化しておけば、感情を介在させずに論理的に判断を下せる。
方向性のズレは起きて当然。それを修正できる仕組みがないことこそが問題なのだ。
株式と資産の分配という地獄
解散時に最大のトラブルになるのが「株式」と「資産」の取り扱いである。友人関係で始めた事業ほど、この部分の取り決めが曖昧なことが多く、結果として「辞めること」が仕事以上に大変なプロジェクトになる。
特にWeb業界では、自社で保有するメディアやドメイン、記事、ソースコードの分配が極めて困難。技術的な資産は形がないため、切り分けや価格算定も不明瞭になりがちだ。
このような事態に備え、共同経営契約書においては「解散時の取り決め」「株式買取の優先権」「事業継承の条件」などを必ず明記しておく必要がある。
それでも、共同経営を目指すなら
共同経営自体を否定するつもりはない。実際に成功している事例もある。ただし、それは「経営的な合理性」と「人間関係の線引き」が徹底されている場合に限る。
もしも今、友人や知人と共同でビジネスを始めようとしているなら、以下の条件をクリアできるか自問してほしい。
・主従関係(No.1とNo.2)を明確にできるか
・理念と行動指針を文書化できるか
・補完関係になるスキルを持っているか
・離脱時のルールを契約書に盛り込めるか
この4点が曖昧なままスタートする事業は、遅かれ早かれ迷走し、対立が表面化する。仲の良さや信頼だけでは乗り越えられない壁が、経営には必ず存在する。
まとめ:共同経営は、友情ではなく経営設計の問題
共同経営がうまくいかない本質的な理由は、人間性でも友情の希薄さでもない。構造設計とルール設定が欠けているから破綻するのである。
「親しき仲にも契約あり」とはよく言ったもので、共同経営に必要なのは情ではなく、明文化された設計図と責任体制だ。
経営とは、想像以上に“合理”を求められる世界である。その覚悟なくして、たとえ親友であっても、共に会社を運営することはできない。
最後にひとつだけ付け加えるならば、「友情を守るために共同経営をやめる」という選択もまた、立派な経営判断である。
参考文献
https://note.com/ta_su_ku/n/n03ca07626501
https://note.com/think_kota/n/n87aa2f86e2ca
https://el.jibun.atmarkit.co.jp/noriwo_t/2015/04/post-5f9a.html
https://tameni.mynavi.jp/column/6360/
https://www.php.co.jp/php/topics/konosuke/article-38294.php
https://www.unisiacom.co.jp/blog/5268/