ある対談で語られた、引退的な立場のベテランと、現役で走り続ける実業家のやり取りは、今まさに起きつつある構造的変化を浮き彫りにしていた。主題となったのは、生成AIの進化と、コンテンツ制作の本質的変容。そしてその先に訪れる業界の「終わり方」だった。
静かに引いていく側の視点
一人はすでに人との接触を断ち、講演や出演を全て辞退している。日々の活動は、過去に発信した動画や文章をもとに、答え合わせのように自らを内省する時間で満ちている。まるで人生の最終フェーズに入ったような感覚の中で、自分のアーカイブを再解釈する。その姿は、一見静的に見えるが、裏ではAIを駆使し、過去の動画を素材に新たな書籍や動画を量産するという非常に先進的な営みが動いている。
編集も文字起こしも全て自動。本人の手をほとんど介さず、YouTubeからの出力がAIによって再構成され、メディアとして再流通しているのだ。
加速し続ける側の視点
一方で、もう一人は生成AIを戦略的に活用する側に立っている。特に広告やマーケティングの領域では、すでに「人間の代替」ではなく、「人間を超える反応速度と最適化能力」を武器にした事例が増えている。
マッチングアプリ業界では、AIによる広告生成がすでに標準となっており、数百単位のクリエイティブを試作し、ABテストでクリック率の高いパターンを抽出して量産する流れが確立されている。そこにタレントやモデルは不要だ。人間のセンスや感性に依存する制作は、利益率と速度において劣後していく。
差分処理としての認知、そしてAIの構造
この対談の後半では、人間の脳とAIの類似性が語られた。脳は、目に入った情報のすべてを処理しているわけではなく、差分を抽出し必要最低限の情報だけを前頭葉で統合している。
AIも同様に、全体を正確に再現しようとするのではなく、誤差や欠落を含みながら「それっぽく」出力しているにすぎない。実際、生成AIが出す画像で指が6本になったり3本になったりすることは多いが、人間も本来は視覚の全情報を精密に捉えてはいない。幻覚や錯視もこの仕組みと共通する。
つまり、人間が情報の「誤差」を補完してしまう以上、AIがすべてを正確に描く必要はない。必要なのは「そう見えること」。ここに、生成AIの本質がある。
今後の産業構造の変化予測
現時点では以下のような変化が進行しているか、近い将来に高確率で訪れると考えられる。
| 領域 | 現状 | 今後の変化予測 |
|---|---|---|
| 書籍制作 | インタビューやライターによる編集 | AIによる自動構成と電子出版が主流に |
| 動画編集 | 人力の切り抜きやショート編集 | AIによる自動切り抜きと短尺展開 |
| 広告制作 | クリエイター中心の制作 | ABテスト型のAI自動生成が拡大 |
| CM制作 | タレント・企画会議依存 | 効果重視のシンプルな量産型へ移行 |
| ストーリー展開 | 決まった脚本・構成 | 注視データや視聴履歴に基づく個別最適化 |
| 視聴体験 | 同一映像を全員が視聴 | 個別視線に応じた動的映像配信が主流化 |
| 映像生成 | 全シーンをリアルに再現 | 見る人の脳が補完することを前提に最小構成で生成 |
終焉ではなく、再編の始まり
対談の中で語られていたのは、「知的クリエイティブこそが最もAIに代替されやすい」という逆説だった。単純労働ではなく、思考や判断、センスといった“高度に人間的”とされてきた領域こそ、AIは容易に模倣し得る。なぜなら、そもそも人間がそれを論理的・構造的に行っているからだ。
これからは、すべてを完璧に再現するAIではなく、人間の補完機能を前提に「見た気にさせる」ことを最適化するAIが主流になる。その時、クリエイティブとは何か？人間の役割とは何か？という問いが、より根源的に突きつけられることになるだろう。
この記事が示すのは、ただの業界予測ではない。これは、創造という営みの再定義に他ならない。
