依存症の力を逆手に取るという発想

依存症と聞いてネガティブな印象を持つ人は多い。だが、苫米地英人はその固定観念を根底からひっくり返す。
脳内に「意図的に」依存回路を作ることができれば、それは成功のための最強の推進力になる。アルコールや薬物ではなく、社会性の高い目標やクリエイティブな活動に対して依存を仕掛けていく。それが苫米地の語るアディクション・デザインだ。

依存症は鈍くなるのではなく、繊細になる

依存症を「鈍感になっていく状態」と理解するのは大きな誤解だ。
むしろ脳はより繊細になり、より細かい刺激を求めるようになる。
オーディオマニアやコーヒー愛好家、ヴィンテージギターの収集家たちが感じる「微差へのこだわり」は、まさにこの構造だ。
より高品質なもの、より繊細な体験にしか満足できなくなっていく。

それは「悪いこと」ではない。
むしろ、この感度の上昇を正しい対象に向けて設計すれば、極めて生産的な依存が形成される。

報酬系と脳のメカニズムを知る

依存の根幹にあるのは、脳の報酬系だ。
ドーパミン経路は、VTA(腹側被蓋野)からNAC(側坐核)を経由し、最終的に前頭前野へと伸びる。
このルートが活性化することで、行動が強化され、繰り返されるパターンが作られる。

ドーパミンは快楽をもたらすだけでなく、行動そのものを促す神経伝達物質でもある。
やる気、活力、集中、創造性の源はここにある。
一方、セロトニンは衝動の抑制と感情の安定を司り、これが不足すると衝動的になったり、抑うつ状態に陥ったりする。

なぜ危険な依存が生まれるのか

本来、仕事・家族・創作・運動といった「自然報酬」によってドーパミンは分泌される。
しかし、過剰なアディクションによって報酬感度が偏ると、これらの健全な刺激に反応しづらくなる。
その結果、ギャンブルやアルコール、ネット、性的刺激など、より強烈な報酬にしか反応しなくなっていく。

これが悪い依存だ。
ただし、この構造を知っていれば「良い依存」を意図的に設計することができる。

成功するための依存をデザインせよ

自分自身の脳に、ポジティブなアディクション回路を形成する。
そのために必要なのは、社会性の高いゴールを設定し、それに対して強い臨場感と快感を結びつけていくこと。
繰り返しその行動をとり、報酬系をそのゴールに結びつけることで、前頭前野にパターンが定着する。

このとき、グルタミン酸によって神経経路の可塑性が強化され、回路は物理的に「定着」する。
この3つ、ドーパミン・セロトニン・グルタミン酸が三位一体となると、依存行動は加速し、戻れないほどに脳の構造が書き換えられる。

金融資本主義という“危険な依存製造装置”

苫米地は警告も忘れない。
金融資本主義は、物理空間とは違い限界費用が働かないため、無制限の拡張と依存を作り出す構造になっている。
ソフトウェアやデリバティブ商品は、一度つくられればほぼゼロコストで無限に拡散できる。
こうした構造にハマると、依存症は社会全体を呑み込む規模へと拡大する。

この危機を避けるためにも、個々人が自分の脳をハックし、正しい方向に依存を設計する必要がある。

アディクションは意図的に仕掛けろ

最終的に苫米地が提唱するのは、「依存を否定するのではなく、仕掛けろ」という立場だ。
美しい目標、創造的な行動、社会性の高いミッションに対して、自分自身を依存状態に持っていく。
これは「夢を叶える技術」などというふわっとした話ではない。脳科学的にも、実証的にも成立するメカニズムである。

報酬系を理解し、前頭前野に成功回路を定着させる。
その回路を日々の行動で強化していく。
そして、その依存が他者にも波及していく仕組みを作れば、それは社会的価値を生む回路となる。

世界を変えるのは、意図された依存だ。


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