お客様が酔って帰れない状況、スタッフの時給はどうなる?

バー経営における「思いやり」と「法的責任」のバランスとは

バーをはじめとする接客業では、お客様が楽しく過ごされることが何よりも大切だ。その中で、ごくまれにお客様が深く酔われ、閉店後も店舗に留まられるケースがある。
こうした場合、スタッフが自主的に付き添ったり、安全確保のために帰れない状況が発生することがある。
このとき、「その時間にも時給を支払う必要があるのか?」というのは、経営者として非常に悩ましいテーマだ。

この記事では、法的観点と現場での実務運用をバランスよく整理しながら、スタッフとの信頼関係も損なわず、お客様にもご安心いただける体制づくりのヒントをお伝えする。

法律が定める「労働時間」とは何か

まず前提として押さえておくべきは、労働基準法における「労働時間」の定義だ。
これは単に作業をしている時間だけでなく、「使用者の指揮命令下にある時間」を広く含む。

つまり、業務内容にかかわらず、従業員が「帰れない」「拘束されている」状態であれば、それは労働時間と見なされる可能性が高い。
したがって、たとえお客様に付き添って待機していただけであっても、法的にはその時間にも時給を支払う責任が生じるのが原則となる。

支払わなかった場合に起こるリスク

たとえば、「帰れなかったけれど時給はついていない」という状況が繰り返された場合、以下のようなリスクが生じることがある。

  • 未払い賃金の請求(2年遡って請求可能)
  • 遅延損害金(最大年14.6%)の発生
  • 労働基準監督署への通報
  • スタッフ間の信頼関係の低下
  • SNS等での風評被害につながる恐れ

こうした問題は、たった一度の対応ミスから生じることもある。だからこそ、あらかじめの備えが重要だ。

スタッフとの信頼も守る、経営側のベストアクション

法的な面をクリアにするだけでなく、スタッフとの信頼関係を築くためにも、以下のような対応を整えておくのが望ましい。

明確なルールづくり

就業規則やシフト表の運用ルールに、「業務外の待機の扱い」「酔われたお客様への対応方針」を明記しておくことで、曖昧さを回避できる。スタッフ側にも安心材料になる。

緊急対応のマニュアル化

お客様の安全を最優先しつつ、対応の主導権を店側が握るように設計する。
たとえば、責任者またはオーナーが対応する体制を整えることで、スタッフに過度な負担がかからないようにする配慮が大切だ。

労働時間の記録を正確に残す

実際に何時までいたかを正確に記録し、該当時間は労働時間として正当に処理する。これにより、後々の誤解や請求トラブルを避けられる。

「支払うべきかどうか」より、「どう信頼を築くか」

結論から言えば、お客様の状況によりスタッフが帰れなかった時間については、原則として時給を支払う必要がある。
だが、経営者が問われているのは単なる法令遵守だけではない。スタッフに対する思いやり、そしてお客様の信頼を両立させるための、誠実なマネジメント姿勢こそが、店のブランドそのものを形成していく。

安心して働ける環境づくりは、安心して過ごせるお店づくりと直結している。
長期的に見て、それがもっとも強く、もっとも優しい経営戦略になる。

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