最初は、状況が悪いから苦しいのだと思っていた。
忙しさ、人間関係、将来不安、体力の消耗。
どれも現実に存在している問題で、確かに軽くはない。
だから解決しようとした。整理し、考え、改善し、前向きに捉え直そうとした。
しかし、何をやっても回復しない時期があった。
そこで初めて気づいた。
問題が多いから苦しいのではなく、処理できない量になった時に人は折れる。
つまり原因は外ではなく、内側の「処理帯域」だった。
最初にやめたのは、意味を探すことだった。
苦しさには理由があるはずだと考えるほど、頭の中の計算量が増える。
なぜ起きたのか
どうすれば回避できるか
自分のどこが悪かったか
将来どうなるのか
考えるほど整理されるはずなのに、逆に圧迫されていく。
問題が増えているのではなく、脳が常時解析モードに入り続けていた。
そこでやったのは「理解」を一度止めることだった。
理解しようとしないと、負荷が下がる。
納得しなくても動けることに気づいた。
次に変えたのは、対処の順番だった。
精神を立て直してから行動するのではなく、行動で精神を固定する。
座って考えるのをやめ、一定の速度で歩く。
気分を整えてから仕事をするのではなく、同じ動作を繰り返す。
落ち着いてから休むのではなく、呼吸を長く吐く。
感情は内側から変わると思っていたが、実際には身体から先に変わる。
落ち着いたからゆっくり呼吸するのではなく、ゆっくり呼吸すると落ち着く。
順番が逆だった。
それでも思考は止まらない。
止めようとすると、余計に増える。
ここで役に立ったのが、別の情報で脳を占有する方法だった。
歩きながら音を流す。
笑えるラジオを断片的に聞く。
昔読んだ本を再読する。
新しい刺激ではなく、予測できる刺激を入れると、頭の中の未来計算が減る。
不安は未知の余白で増えるらしい。
既知の情報で埋めると、自然と静まる。
さらに変わったのは、問題の扱い方だった。
以前は「この状況」としてまとめて捉えていた。
しかし実際には
体力の消耗
対人の疲労
将来の不確定
作業量の過多
睡眠不足
それぞれ性質が違う。
ひとまとめにした瞬間、巨大化する。
分けると処理可能になる。
地獄は大きいから辛いのではなく、未分割だから辛い。
分割すると、解決しなくても耐えられる。
最後に残ったのは、消せない重さだった。
状況が完全に軽くなるわけではない。
そこで発想を変えた。
無くすのではなく、薄める。
歩く時間
音の時間
何もしない時間
決まった動作
決まった順番
負荷をゼロにしようとすると破綻するが、濃度を下げると保てる。
折れるかどうかは重さではなく、濃度で決まっていた。
今は、状況が良くなったから平気なのではない。
処理の仕方が変わっただけだと思っている。
問題を解くことより、扱える形に変える。
理解することより、帯域を守る。
解決することより、制御下に置く。
以前は、苦しさは乗り越えるものだと考えていた。
今は、折れない配置に置き換えるものだと考えている。
状況が変わらなくても、壊れ方は変えられる。