美しいのに反応が出ないデザインは珍しくない。
一方で、造形的には平凡でも成果を出すデザインは存在する。
違いはセンスではなく、人間の反応構造を扱っているかどうかにある。
デザインは視覚表現の仕事ではない。
人が見て、理解し、判断し、行動するまでの心理過程を設計する仕事になる。
その前提に立つと、アートディレクターが扱う領域は美術ではなく心理学に近づく。
h2 デザインは情報ではなく反応を設計する仕事
同じ内容でも配置が変わるだけで伝わらなくなる理由は、人が論理ではなく知覚から処理するからだ。
知覚 → 認知 → 判断 → 感情 → 行動の順に処理され、途中で負荷が生じるとそこで止まる。
余白は美意識ではなく視覚ノイズを減らす装置になる。
太字は強調ではなく注意資源の強制割り当てになる。
配色は装飾ではなく感情誘導になる。
つまりレイアウトは整理ではなく理解順序の制御であり、コピーは説明ではなく意味付けになる。
ここを扱うために心理の知識が必要になる。
デザインは見た目の整形ではなく、処理の流れの制御である。
h2 見た瞬間に決まる 知覚心理
人は読む前に理解する。
0.2秒以内に重要度と構造を推定している。
近いものを同じ意味と判断し
大きいものを重要とみなし
顔を優先して認識する
この性質に従うと説明がなくても意味が通る。
従わないと説明を増やしても読まれない。
レイアウト設計とは配置の美しさではなく、意味分類の自動化になる。
視線の迷いは理解停止と同義になる。
見やすさとは整理された見た目ではなく、迷わない知覚状態を指す。
h2 分かりやすさの正体 認知心理
人は情報量で理解するのではない。
処理量で理解する。
文章を増やすほど丁寧になるという直感は誤りで、負荷が増えるだけになる。
箇条書きが理解しやすいのは整理されているからではなく、記憶単位が圧縮されるからだ。
アイコンが有効なのも同じ理由になる。
説明の役割は知識提供ではなく、処理を軽くすることにある。
分かりやすさは優しさではなく負荷の削減で生まれる。
h2 人は比較でしか選ばない 判断心理
理解しても行動しない理由は判断構造が存在しないからだ。
人は最適なものを選ばない。
選べる形に整理されたものを選ぶ。
比較表があると選びやすくなるのは情報が増えるからではない。
参照点が与えられるからである。
ボタンが押されるのも目立つからではなく、選択が確定するからだ。
説得は行動を生まない。
決断条件を設計したときに初めて行動が発生する。
h2 好意は理解ではなく体験から生まれる 感情心理
分かりやすいものは好かれる。
内容に共感した結果ではなく、理解が楽だった結果である。
読みやすい書体は信頼され、整った余白は高級に感じられる。
丸みのある形が安心感を生むのも象徴ではなく警戒低下の作用になる。
ブランドの印象はメッセージではなく処理体験の記憶で形成される。
好意とは意味の評価ではなく体験の評価になる。
h2 最後に壁になる 行動心理
理解と好意の後にも壁がある。
摩擦が残っていると行動は起きない。
選択肢が多すぎると止まり
入力が多いと離脱し
報酬が遅いと忘れる
人は納得しても動かない。
動ける状態になったときだけ動く。
デザインの役割は説得ではなく実行条件の設計になる。
h2 アートディレクターが扱う心理学の全体像
レイアウトは知覚心理
コピーは認知心理
価格と導線は判断心理
トーンは感情心理
UIは行動心理
ブランドは社会心理
部分ではなく連鎖として扱うことで成果が安定する。
一部だけ改善しても結果が変わらない理由は、反応が途中で止まるからだ。
結論
アートディレクターは造形の専門家ではない。
人間の反応過程を設計する職種である。
心理学は知識ではなく設計言語になる。
美しいデザインが評価を得て、反応を変えたデザインだけが成果になる理由はここにある。
デザインの質は見た目では測れない。
人間の行動が変わったかでのみ測定できる。